家を購入する際や、注文住宅を建てる際に現金一括で購入する人は少ないでしょう。通常、銀行からの借り入れによって30年や35年ローンを組み住宅を購入します。そこで聞きなれない言葉として「根抵当権」や「抵当権」という言葉が銀行員や不動産屋から出てきます。

ここではそもそも抵当権とはどういった権利なのか、そして根抵当権と抵当権の違いについて解説します。ローンを組む際に大切な話になりますから、後から後悔のないようしっかりと理解し、理想の家を手にいれましょう。

抵当権とは?

 
抵当権とは、特定の融資や債券に対する担保のことです

お金を借りる場合、借りたお金を返済できなくなった場合は、家や土地など担保にしたものが競売等にかけられ、返済のためのお金の回収に行われます。例えば、不動産のローンを組む場合、金融機関等が債務者の不動産(物件)を担保として設定できる権利が、抵当権に該当します。

根抵当権とは?抵当権との違いについて

根抵当権は継続的な取引関係から生じる債権を担保するため、不動産等を担保とし、不特定の債権を極度額(限度額)の範囲内で担保する抵当権のことです。簡単に言うと、設定された極度額(限度額)の範囲内で何度でもお金の貸し借りができる権利のことです

例えば極度額が1,000万円なら、1,000万円まで何度でもお金を借りられます。今月500万借りて、来月200万円借りる、ということも可能です。あるいは、300万円返して新たに100万円借りることもできます。一旦極度額が設定されたら、あらたに貸し借りをするごとの契約は必要ありません。

根抵当権のイメージとしては、クレジットカードやカードローンに近いかもしれません。クレジットカードもカードローンも、限度額まで何度でも使えるのが特徴です。根抵当権は、それに担保を設定し、抵当権がついたもの、というイメージに近いでしょう。

抵当権と根抵当権の違いは、大きく分けて3つあります。

1つ目は、抵当権は特定の債権を担保するのに対し、根抵当権には特定の債権がないことです。抵当権は、対象となる債権が明確で、「いつまでにいくら返済すべきか」がはっきり決まっています。借りたお金をすべて返し終わったら、債権が消滅するため、手続きを経て抵当権も抹消されます。

一方、根抵当権は極度額の範囲であれば、何度お金の貸し借りを行い、ひとつの取引によって生じた債権が弁済され、消滅しても、根抵当権自体は消滅しません。

継続的に取引関係にあり、貸借関係が何度も発生し、且つ、債権額も変動する債権を極度額まで担保するのが目的の権利だからです。つまり、根抵当権には終わりがありません。借りているお金がゼロになったとしても根抵当権自体は継続します

その都度、抵当権の設定や抹消をせずにすみ、そのままにしておけることを、「債権の融通性」といいます。

債権の融通性があるからこそ、根抵当権は事業で利用されることが多いです。事業を行っている人の場合、銀行から何度も融資を受けることがあります。ですが、繰り返し貸し借りを行うにあたり、そのたびに抵当権の設定や抹消を行うのは面倒です。手続きの煩雑さを軽減するために、根抵当権は便利な存在なのです。

抵当権と根抵当権の違いの二つ目は権利の委譲についてです。

抵当権は、債務者から移譲の許可が必要ないのに対し、根抵当権は元本の確定まで債務者から委譲に対する許可が必要です。元本の確定とは、簡単にいうと返済額の確定をすることです。

抵当権は、返済の時期と金額が明確に決められています。債権の移譲が行われた場合は、抵当権も移転します。債権が移譲された場合は、移譲先に返済することになります。例えば、債権がAさんからBさんに移譲された場合、移譲後はBさんに返済すればいいわけです。

対する根抵当権は、いつまでにいくらお金を返すという明確な定義づけがされません。返済時期や金額を決める元本の確定を行わないと、被担保債権が譲渡されても債権の移譲は行われず、根抵当権も移転されないからです。

債権者が債務者と調整して、いつまでに返済をするか調整しないまま、勝手に権利を委譲されると、債務者が困ることになります。

だから元本の確定を行わなければなりません。元本の確定を行えば、その後は抵当権と同じ考え方になります。例えば元本確定後にAさんからBさんへ移譲された場合は、Bさんに返済するということです。

3つ目の違いは、連帯債務者についてです。

抵当権は連帯債務者をつけられますが、根抵当権は元本の確定を行わないと連帯債務者をつけられません

抵当権が連帯債務者をつけられるのは、支払の時期や金額が明確だからです。一方、根抵当権は前述の通り、返済時期や金額を決める元本の確定を行う前は、いつまでにどのくらいの金額を支払うか不明確な状態です。その状態で連帯債務者をつけるのは難しいでしょう。

ただし、これはあくまで不動産登記法上の話で、実際は複数の債務者に対し、仮入れた個々の債権・債務を連帯債務と考えられることもあるようです。

根抵当権のメリットは?

根抵当権のメリットは、1回の契約で何度でも、極度額までお金の貸し借りができることです

特にビジネスの現場では、複数回に分けてお金が必要になる場合や、いつお金が必要になるかわからない場合など、予測できない出費が起こりえます。抵当権の場合は、設定・抹消にその都度登記費用がかかる上、その分の手間や時間も必要です。

根抵当権なら何度も契約せず貸し借りができるので、費用も手間も削減できるメリットがあります。

特に登記費用は、1回につき登記のための税金、司法書士への鑑定報酬などが必要です。何度も設定・抹消を行うと大きな金額となるでしょう。ビジネスでの資金繰りには根抵当権が使われることが多いのは、極度額の範囲内なら何度も貸し借りができるからこそと考えられます。

また、金融機関側も、事業者の極度額の範囲を押さえることができるので、他金融機関の入る余地を減らせるというメリットがあるようです。

一方、個人が住宅ローンを組む場合は抵当権を結ぶのがほとんどです

根抵当権付けの物件はここに注意 、抹消はできるのか?

根抵当権の注意点は、抵当権との違いでも述べたように、簡単に権利の委譲ができないことです。

例えば債務者が、根抵当権設定時より低金利になったので借り換えをしたいと考えた場合も、債権者に許可をとらないと融資先を変更できません。元本の確定が必要で、無許可では移譲できないからです

また、根抵当権は、いくら返済が進んでいるか、いくら借金があるかわからないというデメリットもあります。

例えば1,000万円の根抵当権の設定がある場合、仮に残債が300万円だったとしても、ほかの金融機関は1,000万円の借入があると判断します。外から見る限りは、返済の進行状況がわからないからです。

そのため、根抵当権が設定されている物件は他の金融機関から新しく融資を受けるのが難しいこともあります。あるいは、融資を受けられても有担保になるなど、追加融資の審査が通常より厳しくなるのが一般的です。事業の拡大等から物件を購入しようとしている場合、不利になるかもしれません。

抹消手続きについても、根抵当権の物件は複雑です。

根抵当権の抹消は、「できる・できない」でいえば「できる」ものです。書類をそろえ、元本の確定を行って完済したのち、金融機関に終わらせたい旨を申し出れば、該当不動産を管轄する法務局で、司法書士と金融機関の担当者立ち合いのもと抹消登記できます。

ですが、根抵当権の抹消は、抵当権の抹消と比べて難易度が高いといわれています。金融機関からすると、根抵当権は継続的に繰り返し融資ができる契約なので、解約したくないのが本音だからです。抹消手続きを行う上でトラブルになることもあるようdす。

金融機関が解約に消極的な場合もあると知った上で、根抵当権がついた物件を購入する際は注意が必要です。購入する前に、根抵当権を抹消できるかどうかは、債務者(売主)によく確認をしましょう。

いざ購入してから、抹消手続きを行おうとしてトラブルになるのを防ぐためです。購入前に債務者(売主)に抹消手続きをしてもらってから購入するか、本当に抹消できるか念入りに確認した上で購入を検討することが大切です。

根抵当権でよく出てくるリバースモーゲージとは?

根抵当権でよく出てくる言葉のひとつに、リバースモーゲージというのがあります。

リバースモーゲージとは、自宅(持ち家)を担保に、売却や名義変更をせず、自宅に住み続けながら金融機関から融資を受けられる制度です。リバースは「逆」、「モーゲージローン」は不動産を担保にした借り入れを意味します。対象は主にシニア層です。制度としては1980年代からありますが、近年の高齢化により再度注目されています。

リバースモーゲージは、自宅の担保評価額の一定範囲内であれば、いつでも融資を受けたり、年金のように定期的に受け取ることもできます。そのため、リバースモーゲージでは限度額の範囲内で何度も借り入れと返済を行うので、抵当権ではなく根抵当権が設定されるのが一般的です。

リバースモーゲージと根抵当権との関係は、担保という意味で基本的に通常の抵当権と同じと考えていいでしょう。ただし、金融機関側は、すでに抵当権が設定されている物件だとリバースモーゲージの対象外になることが多いです

リバースモーゲージが住宅ローンと大きく違うのは、住宅ローンが毎月返済していくのに対し、リバースモーゲージは毎月借りられて、最後(死後)にまとめて返済が可能であることです。

死後に売却し、そこで売却で得た代金で一括返済に充てることもできるほか、それまでに余裕があればいつでも返済可能です。家賃を払う必要もありません。あるいは、死後、配偶者等に契約を引き継ぐことも可能です

また、リバースモーゲージは自宅を売却せず融資を受けられるというのもメリットです。

住宅ローンに比べ、比較的収入要件等が緩いため、収入や手元の資金が少ない場合も融資を受けやすい傾向にもあります。その他、金融機関にもよりますが、融資金を生活資金以外にリフォーム資金や老人ホームの入居費用に充てられることもあります。

注意したいのは、リバースモーゲージの場合、自宅がマンションの場合は対象外になるケースや、地域制限がある場合もあることです。また、長生きすればするほど融資額が増え、返済額が大きくなったり、将来金利が上昇して返済額が膨らむリスクもあります。

担保となる自宅の評価額は定期的に見直されるため、評価額の下落によって融資の限度額を割り込むこともあるでしょう。その他、申し込みに子供など、推定相続人の同意が必要になる場合もあるので注意しましょう。

まとめ

抵当権と根抵当権とは、どちらも担保を有する抵当権です。ですが、それぞれの性質は異なります。

抵当権が返済時期や金額が明確に決まっている特定の債権で、完済すれば抵当権も消滅するのに対し、根抵当権は債権が特定されておらず、継続的に何度もお金の貸し借りが可能だからです。

根抵当権は何度もお金を貸し借りする関係であればメリットが多いですが、債権の移譲に元本の確定が必要なことや、登記の抹消をしづらいというデメリットもあります。どのような形で家を購入する場合であっても、抵当権か根抵当権のどちらを設定するのか、あるいは設定されているかを必ず確認するようにしましょう。