少しでも費用を抑えたい引っ越しにおいて、敷金礼金なしは魅力的。

とはいえ本当に大丈夫か不安な人もいるのではないでしょうか。今回この記事で、気に入った物件が敷金礼金なしだった場合のメリットやデメリット、契約時や入退去時の注意点をご紹介します。

敷金と礼金の意味

そもそも敷金と礼金とは何か、まずはそれぞれの意味をご紹介します。

概要
  • 賃貸契約を結ぶに借主が貸主に対して支払うお金
  • 退去時には全額もしくは原状回復の修繕費用を差し引いた(敷引)状態で、手元に戻ってくる
目的と相場費用
  • 大家に対して家賃滞納時の保証金
  • 退去時に部屋を借りた当時の状態へ戻す(原状回復)ためのハウスクリーニング代や修繕費用費用
  • 家賃の1~2ヵ月分が相場
概要
  • 日本に古くからある慣習のひとつ
  • 退去時の返金はない
目的と相場費用
  • 部屋を貸してくれる大家に対して支払う謝礼金
  • 家賃の1~2ヵ月分が相場

「敷金」ってどういったもの?

表の通り、敷金は大家さんにとって保証金の役目を果たし、退去時に現状回復や修繕費用に充てられるものです。物件の原状回復は基本的に物件の持ち主(大家さん)が負担します。

ですが、経年劣化や通常使用での劣化以外で、使用者(借主)による過失が原因で起こった劣化や破損に関しては、借主負担で回復させる必要があります。

敷金は借主が負担しなければならない修繕費用のために、預けておくお金でもあります。退去時の修繕費用として預けておくお金なので、借主負担で行う原状回復がなかった場合や、あっても敷金の範囲内で済んだ場合は、敷金は退去後返還されます。つまり、支払ってもある程度は戻ってくることが見込めるお金といえます。

敷金は家賃滞納時の保証金ですが、単純に家賃が払えないからといって敷金から支払うことはできません。使用されるのは、借主が夜逃げをして大家さんが家賃の回収ができない状況で、且つ連帯保証人にも支払い能力がないと判断された場合です。

「礼金」とは

礼金は文字通り大家さんへのお礼金です。支払ったお金が返ってくることはありません。

ですが、小さいアパートや大家さんが直接管理している物件などは、礼金を支払うことで相談ごとがしやすくなるなどのメリットがあります。礼金を支払うことにより、大家さんとしても心証がよくなり、親身になってくれることも多いようです。

ただし、公的融資を利用してできたUR賃貸住宅などのように元々礼金の徴収ができない物件も一部あります。

敷金礼金なし物件のメリット

引っ越しで敷金礼金なしの物件に入居するメリットは、なんといっても初期費用が安く済むことです

引っ越しは何かと物入りで、通常は敷金と礼金以外に前家賃、仲介手数料、保険料などが必要です。敷金礼金の費用相場は家賃の1~2か月分程度、前家賃は1ヶ月分、仲介手数料は1ヶ月分程度が目安といわれています。

引っ越しを業者に依頼する場合はさらに別料金がかかるでしょう。

例えば管理共益費込みの家賃5万円、敷金礼金が1か月分の賃貸物件を契約する場合は、10万円用意する必要がありますが、敷金礼金がゼロ円なら浮かすことができます。

どうしても早く引っ越しをしたいとき、前家賃などを浮かすことは難しいにしても、敷金礼金だけでもゼロの物件であれば引っ越しが可能になるかもしれません。場合によっては予算より高めの家賃の物件を検討することもできるでしょう

引っ越し先の選択肢が広がることも、敷金礼金なし物件を選ぶメリットといえます。

敷金礼金なし物件のデメリット

敷金礼金なし物件を選ぶのは初期費用を抑えられる反面、デメリットもあります。

長く住むほど損をする可能性も

1つ目は家賃が割高になりやすいことです。物件によっては大家さんが損をしないように、敷金礼金をゼロにした分を毎月の家賃に上乗せしている可能性があるからです。

例えば通常家賃12万円で礼金1ヶ月分、賃貸契約期間が2年(24か月)の物件の場合、礼金12万円を契約期間2年で割った金額5000円を、毎月の12万円の家賃に上乗せするというようなイメージです。

無料という文字につられて入居を考えたくなりますが、実は長く住むほど損をするかもしれません。もし聞けるようであれば敷金礼金がなぜ無料なのか、不動産会社に聞いてみるといいでしょう。

物件自体や周辺環境で問題がある可能性がある

デメリットの2つ目は、物件自体に多少なりとも問題があって敷金礼金なし物件になっている可能性があることです。よくあるのは、物件として人気がない場合です。

当然ながら、人気がない物件は空き室が出やすいです。長期間空室が続くと大家さんとしても収入がなくなるので困ります。例えば家賃10万円の物件の場合、入居者が見つからないと1か月でマイナス10万円、2か月でマイナス20万円とどんどん損失が増えてしまいます。

そこで、入居者を少しでも見つけやすくするために敷金礼金をゼロにしている可能性があるのです。

人気がないのは、大なり小なり何かしらの理由があるはずです。例えば駅から遠い、線路が近いなどの理由で騒音が激しい、近隣に買い物スポットがなく利便性が悪いなどがよくある理由です。内見に行っても、無駄足になる可能性もあるかもしれません。

その他、内見ではわかりにくい理由として湿気の問題もあります。

水回りはもちろん、押し入れやクローゼットなども湿気を感じる場合、カビの被害が懸念されます。あるいは、周辺環境に問題がある場合もあります。例えばごみ置き場の悪臭や周辺に問題のある人が住んでいる可能性もなきにしもあらずです。

人気がない物件は、入居者を確保するため、賃貸のオフシーズンに敷金礼金ゼロ物件として出されるケースも多いです。賃貸のオフシーズンは、一年のうちでも夏ごろというのが一般的です。この時期に出ている敷金礼金ゼロ物件は注意して検討した方がいいかもしれません

オーナーが家賃滞納に厳しいケースも

デメリットは、家賃滞納に厳しい大家さんの可能性があることも考えられます。

前述したように、敷金は入居者の支払い能力がなくなった場合に連帯保証人からも家賃を回収できるための保証金としての役目もあります。ですが敷金を預かっていないと、回収する手段がなくなるため大家さんとしては不安です。

そのため家賃の支払いが少しでも遅れると、すぐに督促がきたり厳しく取り立てるケースがあるようです。

敷金礼金なし物件の注意点

敷金礼金なしの物件を契約するときの注意点もいくつかあります。

ひとつは、物件によっては退去時にハウスクリーニングや修理費用の負担が発生する場合があることです。礼金は別として、退去時の修繕費用や原状回復のための費用は、本来敷金を充てます。ですが、敷金礼金なしの物件は最初に退去時のための修繕費用を支払っていません。

そのため、退去時に実費が請求されることがあります。もし請求されるとなれば、金額によっては新しい引っ越し先へ支払う初期費用と合わせると負担になるでしょう。

退去時に必要な支払い費用については、契約書の特約に記載されます。例えば「退去時のハウスクリーニング代は借主負担」と設定されることが多いです。修繕費用については、自分では見た目にきれいで、原状回復の必要がないと思っても請求される可能性があります。

特に、退去時のハウスクリーニングは必須ということが多いです。高額な請求をされないよう、しっかり契約書を確認してから契約することが大切です。

合わせて、敷金礼金なし物件を契約する場合は、退去時の修繕・改装費用等を請求されることを見越して、日ごろからある程度お金を備えておくのが無難です。特に、ペットを飼っている人は、自分が思っている以上の金額を請求されることがあるので注意しましょう

賃貸借契約書の特約部分も確認しておきましょう

契約書を確認する際は、退去時の費用以外にも違約金や敷金礼金以外に発生する費用項目についても注意が必要です。違約金は契約期間内に解約する場合発生する費用です。

契約書の特約という部分に「1年未満の解約の場合〇万円を支払う」と書かれている場合があります。

備考欄も注意して読みましょう。例えば敷金礼金ゼロ物件の場合、退去時のクリーニング費用が、通常より高い料金を設定されている可能性もあります。その他、カギの交換費用や室内消毒代など余分な費用がかかることなどもあります。

契約書は小さく書かれていることが多いため見逃しがちですが、意外と重要なことが書かれている可能性があります。見逃さないようにじっくり読みましょう。

できれば、退去時に不当な費用請求をされるのを防ぐためにも、入居前の状態、引っ越した当時の状態を証拠として写真を撮り、記録に残しておくことをおすすめします。記録として残しておくことで、退去時に自分が住んだことによる汚れ以外の部分まで費用を請求されるなど、不当な請求をされるのを防ぐことにつながります。

それでも退去時にトラブルになることはあります。もしトラブルになりそうなときは、「国民生活センター」に相談しましょう。国民生活センターの問い合わせ先がわからない場合は「消費者ホットライン188」へ連絡しましょう。最寄りの相談窓口を教えてくれるはずです

まとめ

通常発生する敷金礼金がゼロで入居できるのは初期費用を抑えられるというメリットがあります。敷金礼金なしでも、住める範囲にあって収入とのバランスが問題なければお得かもしれません。

とはいえ、敷金礼金なしにしているということは何らかの理由があるはずです。割高、利便性が悪いなどのデメリットはあるかもしれません。入居の契約をするときは、契約書に書かれている退去時の支払い項目や違約金などを細かく確認することも大切です。

賃貸の場合、あくまでも大家さんから借りている部屋であって、自分の部屋ではないという意識で生活をすれば、退去時に高額な費用を請求される可能性は低くなるでしょう。ですが、いずれにせよ、退去時の費用請求のために、ある程度のお金を貯めるよう、日ごろから備えておくのがベターです。

もちろん、敷金礼金なしでも、好条件の物件はたくさんありますし、思いやりを持っていれば、大家さんとも良好な関係を築くことができるはずです。お互い気持ちよく住めるような物件に出会えるよう、敷金礼金なし物件選びを行ってみてください。